今や巨匠となった人気作家、湊かなえ氏。
驚きとともに、なんとなく救いのないラストが多いことから、「嫌ミス」というひとつのジャンルを作り出した偉大な存在です。
2020年2月現在、最新作である「落日」を読みました。
簡単なあらすじ
主人公は新人の女性脚本家。
少しスランプ気味の大先生の元で修行中の身でもありました。
そこに海外の映画賞を取った新進気鋭の映画監督の女性から、相談を受けます。
なぜ、自分のような存在に……と思う主人公。
実は15年前に起こったという一家殺害事件を映画化したいという相談で、主人公も映画監督もその事件が起こった町の出身だったことから連絡を取ったとのことでした。
年齢が違うふたりですが、15年前、その事件の犯人たちと関わりがあったのでした。
映画化に向けて、師匠である大先生と脚本で勝負することになる主人公。
故郷を再び訪れ、当時を知る人たちの証言を聞くことで、自らの過去にも触れ、当時のことを思い出していくのでした。
そして、最後はどのような経緯で殺害事件が起こったのかが説明されます。
私的感想
作品は脚本家と映画監督のふたりの視点から描かれます。
しかも、現在の自分たちと過去の自分たちの視点で描かれます。
このあたり、読んでいて少し混乱するのですが、そこは作者の狙いどおりではないかと思いました。
誰に感情移入していいのかわかりにくいのが難点ですが、最後にピタッと話がきれいに収まるので、ああ、そういうことだったのか、と毎度のことながら驚かされます。
しかし、やはりそこは嫌ミスの女王。
この作品もやはり嫌ミスです。
一応は、主人公たちが強く生きていこうという終わり方をするので、ハッピーエンドと取れなくもないのですが、登場人物のうち何人かは救われません。
ネタバレになるので詳しくは書きませんが、家族を殺害する事件を起こす以上、単純ではない深い事情があるわけで、読者はそれを知ってしまうのですが、犯人が救われるわけではありません。
しかし、このモヤッとした何かが湊かなえ作品の面白さではないかなと私は思います。
直木賞候補作になったのも納得の面白さでした。
ハードカバーで380ページほどあり、分厚く見えて、一瞬たじろいでしまいますが、読み出せば巨匠の作品だけにスラスラと読めます。
ただ、「告白」や「夜行観覧車」といった代表作と比べると、どうかな……という感じはしました。
衝撃度がその2作に比べると低いかなとは思いました。
そのかわり、人物描写の深さというものはこちらのほうが上かとは思いましたが。
「嫌ミス」と書きましたが、この作品はミステリーというジャンルとは少し違うのかもしれません。
どちらか言うと、直木賞より芥川賞寄りの作品なのかなとも思いました。
とはいえ、読んで損はない一冊です。
ぜひ、ご一読されることをおすすめします。
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