「八本目の槍」は新進気鋭の人気作家、今村翔吾氏の著作です。
舞台は戦国時代、織田信長が本能寺の変で斃れたあと、羽柴秀吉と柴田勝家との間で織田家の跡目を争う「賤ヶ岳の戦い」が行われます。
そのとき、秀吉の子飼いだった武将七人が活躍し、「賤ヶ岳の七本槍」などと呼ばれます。
すなわち……
加藤清正(虎之助)
福島正則(市松)
糟屋武則(助右衛門)
片桐且元(助作)
加藤嘉明(孫六)
脇坂安治(甚内)
平野長泰(権平)
の七人です。
実際はもう少し活躍した武将がいたそうですが、語呂合わせから七本槍と呼ばれているようですね。
この物語は七つの章に分かれていて、彼らそれぞれが主役となって物語が進んで行きます。
しかし、賤ヶ岳で活躍した話は昔話として語られるだけで、主な舞台は天下統一を果たしたあとの豊臣家と徳川家康との間に起こるかけひきが繰り広げられていた時代です。
また、秀吉亡きあと、関ヶ原の戦いやら、その後の大坂城を攻めようとする家康に対して、彼らがどう対処して行ったのかを主題としています。
関ヶ原の戦いも描かれますが、わずかな描写です。
なので、彼らが武将として快刀乱麻の活躍をしていくような物語だと思って読むと、肩透かしを喰らいます。
タイトルは「八本目の槍」となっているので、七人では数が合わないと思われた方もいらっしゃるかもしれません。
少しネタバレになりますが、八本目の槍というのは、もうひとり豊臣家のことを考え、槍働きだけではなく、壮大な罠を徳川家康に仕掛けた人物のことを表しています。
歴史好きな方はお分かりでしょう。
秀吉子飼いの武将にはもうひとり大物がいます。
石田三成(佐吉)です。
頭が抜群に良かった彼は、他の七人が考えも覚束ないような策を考え、それこそ、百年先を考えていたのでした。
それがどのような策なのかは、本書を読んでみてください。
三成を主人公にした章はありませんが、彼こそがこの作品の真の主人公ではないかと思わせてくれます。
一般的に加藤清正や福島正則と石田三成は仲が悪かったとされていて、関ヶ原の戦いで加藤清正や福島正則が東軍についたのは、三成憎しという説が時代劇の影響などで伝わっています。
しかし、この作品では、疎遠になっていたことなどは認めていますが、幼い頃から秀吉の元で共に育った人間として、不思議なつながりを持っていたという解釈がされています。
ある種、当時の若者を描いた青春物としても読める作品でもありました。
秀吉の唐入りで、後方にいた三成は、前線で飢えと戦っていた清正らに嫌われるわけですが、そのあたりも合理的な理由が作られています。
作者の今村翔吾氏は視点を変えて、物事を見るのが得意な作家さんであるようですね。
どこまでが創作で、どこまでが史実に基づいているのか、よくわかりませんでしたが、この作品を読むと、これこそ真実だったのではないかと思ってしまうから不思議です。
壮大な話ですが、各章がそれほど長いわけでもないですし、文章も読みやすい作品でした。
ご一読されることをおすすめします。
コメント