今村翔吾著「じんかん」松永久秀を新解釈で描いた作品です。

小説

はじめに

標記の本「じんかん」を読みました。


作者は新進気鋭の作家、今村翔吾氏。
歴史をこれまでと違う視点から見て納得させてくれる作家さんです。
以前、「八本目の槍」という作品を紹介したことがあります。

書評:今村翔吾著「八本目の槍」賤ヶ岳の七本槍ともうひとりの物語
「八本目の槍」は新進気鋭の人気作家、今村翔吾氏の著作です。舞台は戦国時代、織田信長が本能寺の変で斃れたあと、羽柴秀吉と柴田勝家との間で織田家の跡目を争う「賤ヶ岳の戦い」が行われます。そのとき、秀吉の子飼いだった武将七人が活躍し、「賤ヶ岳の七

「じんかん」では戦国三大梟雄のひとりと言われ、悪人扱いを受けている松永久秀に新解釈で光を当てています。

「じんかん」というタイトルの意味

「じんかん」というタイトルですが、これは漢字で書けば「人間」となります。
しかし、作品中、解釈はいくつかに別れます。
人と人の間に生まれる関係、人間一個人はなぜこんなに複雑なのか、人間同士はどうしてこんなに宿業を持って争うのか……
様々な解釈ができます。
作品全体に流れるテーマとして「人はなんのために生まれたのか?」というものがあり、主人公の松永久秀も何度も悩みます。

「じんかん」の簡単なあらすじ

物語は織田信長が小姓に対し、松永久秀のことを語るスタイルをとっています。
信長に対して、二度目の謀反を起こした松永久秀。
信長の恐ろしさを知る小姓はその知らせを伝えるのに震えるのですが、信長はなぜか微笑します。
信長は過去に松永久秀から、生い立ちや生き様について一通り聞いており、今回の謀反も理解できるということでした。
主人公の九兵衛(松永久秀)は京都の西部「西岡」と呼ばれる地域に生まれたということになっています。
武士に食糧をすべて奪われ、それを許してくれと頼んだ父は殺され、母は自らを食えと告げて自殺します。
さすがに母を食べるなんてことはできなかった九兵衛久秀と弟甚助は、多聞丸という少年をリーダーにした野盗を働くグループに参加します。
しかし、そのグループもやがて兵法者を襲ったために壊滅。
松永兄弟は寺に逃げ込み、なんとか救われます。
神や仏がいるなら、なぜこんな貧しい少年たちがいて、悪さをして食い扶持を稼がなければならないのか?
九兵衛はそのような疑問を持ちます。
やがて、九兵衛たちを助けてくれた寺は阿波の三好家から援助を受けていると聞きます。
当時の当主、三好元長は武士をなくして、平和な時代を作りたいという理想を持っていて、九兵衛は大いに賛同します。
やがて、堺の商人、武野紹鴎を通じて元長と出会う九兵衛兄弟。
松永久秀、松永長頼という名前を作り、三好家に仕えることにするのでした。
このあと、三好家のためを思い、松永兄弟は活躍するのですが、三好家の内紛などに巻き込まれ、結果的に三好三人衆と呼ばれる一門と対立することになります。
後には織田信長と手を組み、大和の支配者となるのですが、三好三人衆や大和の豪族筒井氏とは終生戦うことになります。
その間、将軍を殺す、大仏殿を焼く、主人である三好家を裏切ったなどと悪名を押し付けられることになります。

私的感想

戦国三大梟雄のひとり松永久秀について、私も権謀術数に長けた曲者というイメージを持っていました。
三好家も織田家も裏切る悪人というイメージもありました。
しかし、この作品では、いわゆる将軍殺しや大仏殿の放火、三好家への裏切りが仕方のないものだったと描かれています。
それらの理由については説得力のあるものでした。
信長に二度逆らったのも、信長が2回とも久秀の命を取ろうとしなかった理由についても、説得力がありました。
なるほど、こういう解釈ができるのだと目からウロコが落ちる思いでした。
松永久秀の前半生はわかっていないことが多く、前半部分は作者の作ったフィクションかと思われますが、後のストーリーにつながる重要な下地となっていました。
500ページを超える分厚い本でしたが、作者の筆力によって一気に読ませてくれます。
後半部分が慌ただしいので、情勢を把握するのが難しいのと、難しい漢字にふりがなが打たれていないのが少しマイナスかと思いました。
ですが、そんなことは重箱の隅をつつく程度のものです。
歴史小説、時代小説というと事績を順番に追うような作品が多いですが、この作品は文字通り「人間」が描かれている力強い作品でした。
秋の夜長に読んでみてはいかがですか?
おすすめします。

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