ナイツ塙が語る書
この本は人気漫才コンビ「ナイツ」のボケ役、塙宣之が90の質問に対して答える形式を取っています。
聞き手は中村計というノンフィクションライターです。
実質、この人が書いた本と言えるのかもしれません。
どうしたらウケるのかだけを40年以上考えて来た自分を「笑い脳」に侵されていると塙氏は語ります。
M-1には優勝できなかったものの、審査員の地位にたどりついた彼のお笑い論がふんだんに語られています。
いくつか、印象的な箇所を抜粋します。
大阪はお笑い界のブラジルである
塙氏は、M-1はしゃべくり漫才が強いと断言します。
漫才にはしゃべくり漫才とコント漫才があると分け、主流はしゃべくり漫才だと語ります。
しゃべくり漫才の発祥の地であり、本場であるのは大阪であるということで、それだけで関西芸人が強いと分析しています。
大阪は日常会話からして漫才のテンポであり、誰かがボケたらツッコミをするのがマナーとなっている、それはまるでブラジルの少年たちが幼い頃からサッカーボールを蹴って遊ぶのに似ているとのことで、これに勝つのは容易ではないと語っています。
第1回のM-1チャンピオンである中川家は、「喫茶店の会話の延長」くらいが漫才の理想だと語っていたとか。
M-1は100m走
最大4分しか時間のないM-1では、いかに短い時間でテンポよく笑いをたくさん取るかが問われます。
それはまるで100m走のようだと塙氏は語ります。
唯一、スローテンポで健闘したのがスリムクラブだということですが、結局は負けてしまったと。
普段、寄席で15分くらい舞台に立っているナイツは、どちらかというと長距離ランナータイプだといいます。
それだけに突然、M-1のテンポに合わせると大怪我をするので、予め出場前には100mでも戦えるよう身体を作っていた(M-1用の練習をしていた)そうです。
なお、過去最高のスピード感で優勝したのがブラックマヨネーズだといって、高く評価しています。
しかも、ハゲネタやブツブツネタが印象的ではあるものの、中身はしゃべくり漫才だったと。
自分自身について
M-1に関するネタだけでなく、自分自身の生い立ちについても話しています。
そもそも、幼稚園のときにウンコを漏らしたときが転機だったそうです。
からかわれていたわけですが、ドリフのギャグによくウンコが出てきたことで、逆に笑いに昇華できないかと考えたところ、開き直って、「ウンコの歌」というのを作ってクラスメートたちに披露したところ、これが大ウケ。
もう無敵だと思ったそうです。
その後、ダウンタウンの松本人志がテレビのクイズ番組でボケまくっているのを見て天啓を受けたと語ります。
ダウンタウンの漫才を見て、漫才師を目指したという説は間違いだそうです。
自分はただひたすら松本人志のようにボケ倒したかったのが、芸人になったきっかけであるそうです。
一番、ボケられたのが漫才だったので、結果的に漫才師に落ち着いたとのこと。
芸の師匠は内海桂子ですが、心の師匠は松本人志だと語っています。
その他
後半部は同年代の漫才コンビたちについて語る内容が多かったです。
サンドウィッチマンとパンクブーブー、チュートリアル、南海キャンディーズらへの評価が高かったです。
最後は「江戸漫才」というカテゴリーができるといいなと締めくくられていました。
私的感想
タイトルを見て、M-1のことだけを鋭く分析している本なのかと思っていたのですが、実際は半分くらいでした。
残り半分は塙氏の漫才感やお笑いへの思いが語られています。
人気漫才師の語る話なので、どれも興味深く読むことができました。
問いに答える形式だったので、読みやすくもありました。
大爆笑というタイプの本ではないですが、なるほどなーと思わせてくれる本です。
興味を持たれた方はぜひご一読を。
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