標記の本「黒牢城」を読みました。
作者は米澤穂信氏。
「氷菓」や「王とサーカス」でも知られるミステリーを得意とする作家さんです。
「黒牢城」の舞台設定
時は天正6年(1578年)10月。
戦国時代の真っ只中です。
上杉謙信が死亡した年でもあり、毛利氏が尼子氏を滅ぼした年でもあります。
織田信長が勢力を伸ばし、本願寺勢力と争っている時期でもありました。
翌年には安土城が完成します。
本能寺の変まではあと4年あります。
信長の天下布武への勢いがすごかったこの年、織田信長に臣従していた摂津の大名荒木村重が突如、信長に反旗を翻します。
この行動については、未だ定説がありません。
一説には荒木方の一部武将が毛利や本願寺と通じていて、それが信長にバレたら確実に処分されるので、それを恐れたとも言われています。
この作品中では、戦局を読んだ荒木村重が本願寺、毛利と手を組み、信長を包囲できるタイミングで謀反を起こしたという形になっています。
「黒牢城」の簡単なあらすじ
謀反を起こした荒木村重のこもる有岡城(伊丹城)に織田方の使者として、黒田官兵衛がやってきます。
説得する官兵衛ですが、村重の意志は堅く、今更、織田方に下るつもりはありません。
死を覚悟する官兵衛。
しかし、村重は官兵衛を殺さずに土牢に彼を閉じ込めるのでした。
これは官兵衛にとって計算外でした。
官兵衛は人質を織田家に差し出していました。
官兵衛が殺されるか、城から追い出されたのなら、人質は殺されないでしょうが、行方不明となれば、村重に味方したものと解釈されてしまいます。
村重は無闇に人を殺さないことで、自分は信長と違うと示す思惑があったようですが、困ったことになってしまいました。
このあと、有岡城ではいくつか不思議なことが起こります。
殺さないでおいた人質がなぜか殺されたり、敵の大将首を討ち取ったのが誰かわからず、ふたつの勢力が争うことになったり……
他にも明智への使者として送る予定だった坊主が殺され、名物の茶器が行方不明となったり……
これらが連作短編(中編というべき長さか?)として4章に分かれ語られます。
毎回、村重は知略を絞り、謎を解こうとするのですが、行き詰まります。
すると、土牢に閉じ込めてある官兵衛の元に行き、言葉を交わし、知恵を借りようとするのでした。
しかし、官兵衛はヒントを与えるものの、答えまでは教えません。
「村重殿はわかっているが、その答えを認めたくないのでしょう」とはぐらかされるような問答となります。
最終的にそれぞれの謎は解かれ、そして、最後の最後には意外な人物が一連の奇妙な事件の黒幕であったことがわかります。
それは、村重が認めたくない相手でした。
私的感想
非常に読み応えがある一冊でした。
有岡城内の描写にはリアリティがありますし、籠城する武将たちの精神状態や迷いながらも突き進む荒木村重の心情も細やかに描かれていました。
それぞれの謎も本格ミステリーのように楽しめます。
戦国時代を舞台にした本格ミステリーなのです。
この舞台設定を作り上げたことが見事だと思いました。
不勉強のため、荒木村重の部下たちまで私は知りませんでした。
なので、どこまでが実在人物で、どこまでがフィクションなのかわかりませんが、いずれの人物もそれぞれに思惑があり、リアルに描かれていたと思います。
黒田官兵衛との駆け引きも面白かったですね。
荒木村重といえば、謀反まで起こしたのに、最後は部下や家族を見捨てて逃げ出したので、あまりいいイメージを持っていませんでした。
しかも、残された者たちは悲惨な最後を遂げていますし……
しかし、この作品を読んだことで、当然といえば当然ですが、彼にもいろいろ思うことがあって謀反を起こし、最後は逃げることになったのだなと同情してしまいました。
私の中の荒木村重像が変わりました。
450ページほどある分厚い本で、戦国用語や時代考証を意識した言葉遣いなどが多く、スラスラと読める感じではありませんが、先が気になって次から次へとページをめくってしまう作品でした。
読めば、あなたの荒木村重像が変わるかもしれません。
おすすめできる一冊です。
ぜひ、ご一読を。
※追記
この作品で直木賞を受賞されました。
おめでとうございます。
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