標題の本「たとえ世界を敵に回しても」を読みました。
作者は志駕晃氏。
「スマホを落としただけなのに」でセンセーショナルなデビューをされ、以後多数の作品を発表されている方です。
「たとえ世界を敵に回しても」あらすじと紹介
主人公の小山葉子はもうすぐ50歳になる女性。
介護施設で過酷な勤務をこなしていました。
夫とは離婚していました。
彼女には雅也という22歳になる息子がいました。
5年前に東京の新宿にいると連絡があったきり、音信不通となっていました。
女手ひとつでかわいがって育てたので心配ではあったのですが、連絡がつかずどうしようもない状態でした。
そんな中、葉子の勤め先に妙な電話がかかってくるようになりました。
「介護施設に犯罪者の母親を働かせていていいのか」
というような内容でした。
心当たりのない葉子でしたが、自宅アパートの玄関前に生ゴミが放置される事件も起きました。
「ピエロマンの母親へ。子どもの責任は親の責任だ。犯罪者であるおまえの息子をなんとかしろ」
なんて貼り紙までされています。
ピエロマンというのが迷惑系ユーチューバーの名前とわかり、本名が小山雅也だとわかると葉子は居ても立っても居られなくなります。
嫌がらせの貼り紙をしてきた相手に対し、「ピエロマンの住所を教えてください」と貼り紙を貼り、逆質問。
やがてピエロマンの住所が新宿歌舞伎町だとわかると、葉子は新幹線の切符を買って飛び出して行くのでした。
すべてはかわいい息子のためでした。
やさしい子どもだった雅也の面影が忘れられない葉子は、雅也なら話せばわかってくれるはずだと考えていたのでした。
雅也が東京でその後どんな仕事をしているのかも知らず……
「たとえ世界を敵に回しても」・私的感想
毎回、なんらかの社会的問題を取り上げる志駕晃氏。
今回のキーワードは迷惑系ユーチューバーと半グレ、クスリといったところでした。
新宿歌舞伎町という、ある種特殊な街のことをリアルに描いているのはさすがです。
取材を細かくされたのかはわかりませんが、読んでいて怖くなるくらいでした。
このあたりは一種のホラーですね。
話の展開としては、この作者らしく山場でひとひねりあり、普通に読んでいたら「ああ、またやられた!」といううれしい誤算をさせていただきました。
若干、ご都合主義的な展開がなかったといえば嘘になりますが、そこは演出ということで。
殺人事件が起こって、犯人は誰か、何者かというような作品ではありません。
ただ、ピアノマンの正体は本当に息子の雅也なのかという謎が途中からポイントになり、次から次へと怪しげな登場人物が出現します。
一体、誰を信用したらいいのかと読んでいて心配になるくらいです。
ミステリ要素はそれくらいですかね。
あとはたとえ反社会的組織が相手でも母親の息子に対する愛情は無限なんだよということを教えてくれるヒューマンドラマ的な面が大きかったです。
275ページある本ですが、文章は読みやすく、続きが気になって仕方がなくなる内容でした。
読んでみて損はないと思います。
ぜひご一読を。
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